子供の頃、そうめん、冷や麦と云った夏の麺類は好きではなかった。天ぷらとかおかず要素があれば美味しいと思ったんだろうけれど麺つゆですするだけでは物足らない。
昭和30年代の事だから出汁は煮干し出汁で味醂なぞ使ってないから砂糖でぼんやりとした甘み、もっとはっきりとした味が欲しかったんだと思い出す。
子供に人気がないもんだから、母親は目先を変えて玉ねぎやニンジン、竹輪などを細かく刻み味噌味の上掛けを作って、これは喜んで食べた。
だから大人になっても麺類は中華そばも含め好物ではなかった。それがひっくり返ったのは東京に出て知ったどさん子の札幌味噌ラーメン。
濃厚な味噌スープとプリプリした独特の麺。タップリおろしニンニクを入れてあれにはしばし嵌った。そのうち醤油味も美味しい事を知る。
だけど矢張りそうめん、うどん類は金を出して迄食うものかと思ってた。それを宗旨替えしたのは稲庭うどんを食べた時。うどんてこんなに美味しかったのかと目を見張らされた。
あれは週刊朝日のグラビア「私の好きなこの店この一品」で六本木あたりのお店の案内で銘酒と一緒に紹介されてて覚えた。
ついで老舗蕎麦屋の高いせいろを食べ職人の打った綺麗に切り揃えられた麺の美しさにも感じ入り、これで麺類全般美味しいんだと気が付いた。
そうめん、冷や麦の美味さもそうなると判って来る。夏の暑い日にすする冷やしたそうめん、冷や麦、うどんの美味しさ。
そうめん、うどんは全国各地に地元特産の麺がありそれぞれお国自慢。名古屋だときしめんが有名だし味噌煮込みうどんも独特。
学生の頃名古屋駅で高校の同級生にばったり出会い、彼は板前修業中。冬だったけど美味しいきしめん食わせるからと連れていかれたのは国鉄のホーム。
伊吹おろしの寒風吹きさらしの中、何番線だったかホームの立ち食いスタンド。茹で麺に出汁を掛けほうれん草とたっぷりの鰹節を載せただけのきしめん。
名古屋で育った地元民の大学の同級生には同じく名古屋駅のコンコース地下にあった煮込みうどん屋、ここが美味いんだと紹介して貰った。
でもこの時点では目を瞠って美味しいとまでは感じなかった。寒い中でフーフー云って食べるきし麺は美味しいに決まってる。
きし麺の美味さに気が付いたのはそれから40年も経ってから、きしめんはボテっと厚目のは駄目でペラペラの薄いのを舌に載せてツルっと行くのが美味しい。
それから偶然だけど新しい麺に出会った。近くのスーパーで特産展、九州長崎、そこで売ってた五島うどんを買い求め食べてみた。
これが美味かった。それからあちこち探すのだけど五島うどんにはお目に掛かれない。そこで弟が長崎にいるものだから五島うどんを送ってくれるよう頼んでみた。
幾つもの地元メーカーのものをたくさん送ってくれて、あご出汁も同梱、どれが美味しいか確認しようと思ってたけれどどれも美味しいから途中でチェックするのは止めた。
それが無くなってそろそろ次頼もうと思ってたらまた送ってくれた。今回は島原そうめんと五島うどん。もひとつ息子の嫁さんが富山の人でそこが送ってくれたという氷見うどんも入ってた。
そうめんはうちにも揖保乃糸があるのでそれを片付けて先日島原そうめんをお昼に食べてみた。これも目を瞠りましたね。
揖保乃糸の晒した白に較べれば少し黒っぽい。麺つゆは市販のものでワサビ少し入れてツルツル。美味いねー。腰があって最初茹で不足かと思ったけどそうじゃない。
これは病みつきになる。不思議だ、うどんもそうめんも材料はうどん粉と塩と水。そこにノウハウが加わるんだけど同じ材料を使って美味しさが違ってくる。
キモは麺の腰かな。舌に感じる味、美味さそのものより口に入って噛んで呑み込む一連の口内手順で感じる麺の質感が美味さの元なんだろうと思った。
まだ五島うどんがある。五島うどんの美味しさは、これも細麺のツルっとした喉越しが美味いって既に知ってる。あとは氷見うどん、どんな喉越しか、これから頂ます。
こういう地方の味は、地方それぞれの風土の中で工夫され生まれて来たもの。願わくば評判だからと云って大手がブランド拝借し大量生産で地元小資本を駆逐して欲しくないなぁ。
ぼろ儲けはできないけれど地元の味は地元の人の生活の中にあってこそ保たれる。だからうどんは各県夫々にあって夫々に美味しい。
香川はうどん県だって云ってるし。まぁ美味さは認める。三重の伊勢うどんだって、あのフニャフニャは、美味しいと思う人もいて地元で愛されてる。
月曜日の山歩き。山栗が実を一杯つけてた。